【音程を気にする前に】の記事の中で以前、ボーカルレコーディングをしていて、私が音程がずれていることを指摘すると、歌い手はそれを気にするあまり、≪こぢんまりとした堅苦しい歌≫になる傾向がありますと述べました。
これはプロのシンガーでも同じなんですね。
「音程を合わせよう合わせよう」という気持ちが歌に弊害を及ぼす
ですから私は歌をディレクション(指示)する時はなるべく「音程が低いね」とか「そこはピッチがずれてるから気をつけて」などレコーディングが始まった最初のうちは言わないように気を配るようにしています。
もちろん、基本となるいいテイクが録音できた後は、音程を重視したテイクも録るようにはしていますが
何故かと申しますと、シンガーが「音程を合わせにいく」弊害の方が「音程が悪いこと」より気になるからです。
その弊害とは具体的にはどういうことか?と申しますと
- 歌にダイナミックさが欠けてしまう
- 歌の節(しゃくり) が小さくなりニュアンスがなくなる
- 声の響きがなくなる
ピッチを合わせにいくことで上の全てダメになるということではありませんが、そういう傾向がありますということです。
例えばピッチャーがフォアボールを出したくないために、コントロールを良くしようと意識するあまりに、腕の振りが鈍くなって球に勢いがなくなり、ヒットを打たれてしまうのと同じような感覚です。
「音程を合わせよう合わせよう」とすることで、体のどこかに余計な緊張感(力)が入ってしまうのもあるのでしょう。
また、ピッチを合わせにいくという制約があると、歌を自由に表現する、思いを伝えるという大切な部分に気持ちが行きづらくなってしまうと私は感じています。
ボーカルディレクションに不慣れな人はすぐに音程の悪さを指示してしまう
歌をレコーディングする際に、ボーカルディレクション(歌の指導)に慣れていない方は、まず最初に「音程の良い悪い」を歌い手に指摘することが多い気がします。
元々ピッチも、ニュアンスも響きも完璧に素晴らしいボーカリストだったら分かりますが、どんなボーカリストだったて、特に歌い慣れていない新曲のレコーディングなどでは音程は上下してしまうものです。
歌う人にとっては《音程が正確》ということよりも、もっと表現したい想いがあるはずです。
でもそんなことを言いながらなのですが、音程を合わせるのはボーカリストにとって大切ですよね。そんな時は次のことを意識してみて下さい。軽く意識する感覚です。
音符に歌を正確に合わせるというより、頭の音だけを合わせる感覚で
【音程を良くする方法】では『頭の子音をきちんと意識して、フレーズの最初の音を合わせ』ことから始めてみて下さいと述べました。
みなさんも「音程を合わせに行く」ことに神経を傾けすぎないよう気をつけて下さいね。