現在の音楽業界ボーカルレコーディング事情】でも書きましたが、最近の音楽業界ではCD制作費圧縮の影響で、ボーカルエディットなどの作業もプロデューサーやエンジニア、アレンジャーが自宅で行うのが普通です。

スタジオ料金やエンジニアギャランティーは基本時間制なので、時間がかからなければそれだけ、CD制作費は圧縮できる訳です。

よってボーカルレコーディングも時間をあまりかけられる傾向ではありません。

そんな事もあってか、制作者側はボーカリストがキチンと歌えなかったとしても、「あとは直せばいいね」となって、エディットを前提としたレコーディングを行う傾向がなきにしもあらずだと感じます。

一方ボーカリストの方はといえば、自分の歌をエディットされたいと思っている方は少ないとは思いますが、中には「後で上手くやっといて下さい」的な方もいないわけではありません。

特に、自分で歌をエディット出来るボーカリストはそのような傾向があるかもしれません。

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音程修正ソフトやDAWソフトに頼らず、良いテイクが録れるまで歌いきる

Auto-TuneやMelodyneなどの音程修正ソフトや、Pro ToolsやCubaseなどのDAWソフトを使ったボーカルエディットに頼らずに出来るまでしっかり歌いきることが大切なような気がします。

ボーカルディレクションをする私としても反省するところは多々あります。

※ミックスダウンを行う際、歌が良く聞こえるように言葉のアタックを強調したり、サビなど抑揚をつけるために、ボーカルの音量の上げ下げ情報をDAWソフトのフェーダーにオートメーションで描き込みます。

この歌を描く作業は通常必ず行うものです。ただあまりにも言葉のキレが悪かったり、メリハリがない歌を補うために、過度に歌のヴォリュームを描くことは決して好ましくありません。自然な抑揚でなくなってしまいます。

音程が上手く合わなかったり、歌のタイミングが走ってしまったり。覚えたての曲を歌う場合には、一流ボーカリストでもそうなってしまうことは多々あります。

しかしこれらも、

  • 事前にその曲が体にしみ込むまで練習する。
  • 歌の強弱は声の出し引きや、マイクとの距離をシンガー自らが前後するなどして音量を調整する。

これらがキチンと出来ていれば歌をいじる必要性はありまあせん。

エディットするのが決して悪いことだとは思いませんが、やはり

レコーディングの基本は「良いテイクを歌えるまで、何度でも最後まで歌いぬく」

そういう心構えが大切だと思います。

上手く歌えなかったら直せばいいという心の隙が、レコーディングされる歌に反映されてしまうような気がします。

したがって、緊張感がなくなったパフォーマンスになり、ベストな歌にならないこともあるように思います。

歌をエディット出来るようになって、新たなジャンルの音楽も生まれたことは事実です。確かに、後から歌を直せることは好ましいことも多く、音楽を表現する上でプラスの面もあります。

ただ音楽の原点として、≪人間のヒューマンな部分が人の心を打つんだ≫ということは忘れずに、日々音楽制作を心がけたいと考えています。

ワンズウィル 中山 雅生