最近ではミクシーなどのコミニュティーサイトで知り合った方に、ネット経由でアレンジを頼んだり、歌を歌ってもらったり、ギターを演奏してもらったりすることがアマチュアの方でも普通に行われているようです。
私の周りのプロの作曲家も、レコード会社の楽曲コンペのために、サイトで知り合ったボーカリストにカラオケを送って、歌ってもらうことはよくあることです。
>皆さんはそんな時のボーカルやギター、カラオケなどの録音データのやり取りを、MP3で行ったりしていませんか?
結論から申しますと、これはやめた方がいいでしょう。
MP3に圧縮、又はバウンスをすると元音とずれる
レコーディング現場ではWAVもしくはAIFFという圧縮されていない音声ファイルフォーマットで録音を行います。プロアマ問わずこれは常識です。
ですからネット経由で録音データをやり取りする場合も、カラオケのデータでさえ当然WAVなどの非圧縮音源でおこなうのが原則です。しかしWAVはデータが重いのが難点ですよね。
その点、MP3はメール添付で送れるくらいデータが軽くて便利なのですが、思わぬ落とし穴があるんです。
WAVをMP3に変換すると元の音源と時間軸がずれてしまいます。
つまり元音に対して遅れてしまうのです。
意外とプロの方でもこれを知らずに、ギタリストやボーカリストに自分がアレンジしたカラオケをMP3にしてネットで送って、歌ってもらったり演奏してもらう方は多いんですね。
皆さんもネット経由で音源をやり取りしていて、送られてきた歌や演奏データを自分のオケに合体した時に、なんだかタイム感がおかしい?遅れて聞こえる?といった経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
先日のレコーディング現場で、MP3遅延問題が起きる
実は私達も先日のレコーディング現場でこの問題が起きました。
各楽器の録音データの遅延です。
今回は時間のないプロジェクトだったので、ドラムとベースはスタジオで録音、ギターとピアノは、そのドラム・ベースにシンセなどを加えたカラオケをネットで送り、自宅で演奏してもらったそうです。
この日はボーカル録音だったのですが、当日直接スタジオにギターとピアノのデータが送られてきました。
Pro Toolsセッションを開いて演奏データを取り込んでみると、ギターとピアノのデータがセッションのグリッドに対して全体的に遅れているではありませんか。約500サンプルほどの遅延です。
ミュージシャンの演奏が駄目なのか? Pro Tools のバグなのか? 歌の録音が迫っていたため、問題をいろいろ検証してみましたが・・・
しかし理由は簡単でした。アレンジャーにいろいろ問うと、録音用のカラオケデータをMP3に圧縮してミュージシャンに送っていたのが原因だったのです。
これではデータを合体した時に時間軸がずれてしまいます。
各ミュージシャンはMP3に圧縮された元のセッションとはずれたオケを聞きながら演奏したのですから、当然演奏を戻したら遅れた位置にきてしまいますよね。
私達もMP3にするとデータがずれるのは知っていましたが、500サンプルという、これほどまでに遅延が起きるとは正直驚きでした。
MP3の遅延をPro Toolsを使って検証
これは後日きちんと検証してみようと言うことで、その結果を以下に記したいと思います。
一般の方のDTM環境を考えて、Pro Tools | HDではなく、Pro Tools 9で行いました。PCはMac Pro、そしてMP3変換ソフトはiTunesです。
Pro Toolsで48k-24bit WAVでモノラル録音したクリック音を
- Pro ToolsでWAVにてそのままバウンスしたもの
- iTunesにてmp3に変換したもの
- Pro Toolsで直接MP3にバウンスしたもの
をそれぞれインポートし直しました。
分かりやすいように波形を拡大していますが、写真のようにクリックが遅れているのがわかります。
- 定義語Pro ToolsでのMP3遅延検証 画像の上から順に
- ・click 元のクリック音(WAV)
・WAV Bounce(遅れなし)Pro ToolsでWAVにそのままバウンス
・MP3 iTunes(528サンプルの遅れ)clickをiTunesでmp3に変換
・MP3 Bounce(672サンプルの遅れ)Pro Toolsで直接MP3にバウンス
※ちなみにMP3への変換はサンプルレートが48kHz、ビットレートは160kbitsで行いました。ただclick音がモノラルなので、ビットレートの値は自動的に半分の80kbitになります。
エンコード方式や、使うDAWソフト、音楽変換ソフトによってまちまちのデータ結果が出るとは思いますが、ひとつの目安としてください。ちなみにPro Tools | HDでも同じ検証をしてみましたが、結果は全く一緒でした。
500サンプルというと約10msecになります。
ボーカルやギター、ピアノなどの生楽器の場合は10msec位の遅延だと、その人がアフター(後ろ目)に歌ったり演奏しているようなグルーブに感じて、遅延に気がつかないかもしれません。
ただこの10msecという遅れは、レコーディングセッションではかなり問題となるレベルで、聞いていて気持ち良くないと感じる方がほとんどでしょう。
さらに何回かデータのやり取りを繰り返したら、どんどん時間軸がずれていって収拾がつかないほど各パートがバラバラのセッションになってしまいます。
MP3は楽曲の仕上がりをチェックする時などに使って、データが重くてもレコーディングセッションのやり取りはWAVで行うようにしましょう。
セッションが【48kの場合】
1秒間=48000サンプル 1msec=48サンプル 10msec=480サンプル
セッションが【44.1kの場合】
1秒間=44100サンプル 1msec=44.1サンプル 10msec=441サンプル
wavをmp3に圧縮、バウンスすることで遅延が生じるとしても、録音してもらう際に楽器単体で録音してもらい、あとから各パートを演奏開始を合わせて編集すれば問題ないのではないかと思ったのですがいかがでしょうか?
Chris様
【ボーカル請負人】のブログをご覧になって頂きましてありがとうございます。
確かに後から各パートを遅延する分だけずらして合わせれば大丈夫かと思いますが、音楽データのやりとりはWAVで行なうのが一般的なので、データが重くてもその方が宜しいかと思います。
ボーカル請負人