アーティストの声質や楽曲に合わせてマイクを選ぶのは良くある話ではありますが、今回はコンデンサーマイク Neumann U87 Aiを使用した一風変わった、ハマれば効果抜群のボーカルレコーディング方法をご紹介したいと思います。
先日ワンズウィルミュージックスクールのスタジオで、このブログでも何度か紹介させて頂いてるレコーディングエンジニアの上條直之さん、ボーカルディレクションはワンズウィルの中山で、某アーティストの歌の録音を行いました。
新人から大物アーティストまで幾多のレコーディング現場を経験してきた名コンビです。
ボーカルレコーディング現場。スピーカーの前が上條さん、手前がボーカルディレクター中山。
コンデンサーマイクを手に持って歌をレコーディング!?
通常、コンデンサーマイクはマイクスタンドで固定してレコーディングを行いますが、今回はアーティストのテンションを考慮して、Neumann U87 Aiをなんとハンドマイクのように手に持ってレコーディングを行いました。
こんなマイクセッティングは普通ではあり得ないんですね。
コンデンサーマイクは非常に繊細でデリケートなマイクなため、ちょっとした振動でも音を拾ってしまいますし、落としたりしたら一発でアウトです。湿気にも弱いのでリスキーで基本的にはタブーな手法です。
ノイマン U87 Aiを手に持って歌をレコーディング
何故そんなセッティングをしたのでしょうか?
まずは歌の入力レベルや音質を調整するために声出しも含めて、ボーカリストに1回歌ってもらいました。
その歌を聞いてエンジニアの上條さんは、『どこか窮屈な歌に聞こえるので、もっと自由にボーカリストのフィーリングを重視した歌の録り方をした方が良いのでは?』と感じたのだそうです。
[アップテンポで軽快感がある曲だから、ノリが良い明るい歌を録音したい]という中山の意図も考慮すると、『固定されたマイクに向かって歌うよりも、手で持って自由に動いて歌った方がLive感も増すし、楽しく歌えるだろう』と考えたそうです。
そして再度レコーディング開始。
するとどうでしょう、1回目の歌とは見違えるような、素晴らしい歌に変貌しました。驚きです。
その躍動感のある歌に合わせるために、即座にマイクプリやコンプレッサーの値を調整していました。(実はこの時のコンプの設定もノーマルではない独特なものでした)
この柔軟性のあるレコーディング現場での対応はさすが上條さんです。エンジニアリングひとつでここまでは歌が変わるとは。
常識では考えられない斬新な録音方法ですが、
- コンデンサーマイクをハンドマイクとして録音するメリット
- マイクが固定されていないので、感情のおもむくままに自由に動き回れ、何よりもボーカリストのフィーリング、テンションを重視した録音ができる
- ボーカリストがマイクと近づけるためにLowのある(芯のある)声が録音できる。
ということが上げられます。
この録音方法はポップガードも無しで行うので、歌い手の発声方法によっては「吹いて」しまったり、マイクの距離感を声の張り具合によって微妙にコントロールしなければならず、ボーカリストがマイクを操るテクニックが必要です。
コンデンサーマイクはとても高価なマイクなので、素直にオススメはできませんが、楽曲の方向性やアーティストのキャラクターによってはこんな録り方もあるということも知っておいて損は無いと思います。
※ポップガードとはレコーディングマイクの前に付けている網の張ったものです。これをつけるこで、破裂音などのノイズをマイクが拾うのを防ぐためのものです。ポップスクリーンともいいます。
しかしダイナミックマイクは勝手が違います。
マイクの選び方 ~ダイナミックマイクとコンデンサーマイクの違い~でも書きましたが、扱いも簡単で、派手に動き回っても大丈夫なマイクです。
皆さんも「躍動感のあるテンションの高い歌を録音したい」場合は、ダイナミックマイクを手に持って歌を録音することを試してみて下さい。
ロックボーカリストなどのレコーディングではこの手法を取り入れる場合も珍しくありません。開放感のあるエネルギッシュな歌が録音できると思いますよ。