最近は「うたってみた」などの動画サイトに投稿するために、自宅で歌を録音する方も多いと思います。またプロのミュージシャンを目指している方はもちろんですが、趣味としてDAWソフトを使って自作の曲をボーカリストに歌ってもらうという方も多いと思います。
そんな方々へ向けて、長年スタジオでボーカルディレクションを経験から思う
について今日は音楽プロデューサーとしての視点から書いてみたいと思います。
※私は録音が専門のレコーディングエンジニアではないので、今回の記事は≪高音質で歌を録音するための、マイクセッティングやコンプやマイクプリなどの細かな設定≫についてのものではありません。
ボーカリストが歌いやすい音を作ることが最も大切です。
ズバリ申します。
- 良い歌を録音するためにエンジニアがすべきことは何か?
- ボーカリストが気持ち良く歌える環境を整えてあげることです。つまり歌いやすいようにヘッドホンで流れる音(モニターバランス)を調整する。
これが一番重要なのです。たったこれだけです。
こんな簡単なことですが、プロのレコーディング現場でも実はキチンとなされていないかったりします。皆さんも自宅で歌を録音する時に、ただ何も考えずにオケを流していませんか?
歌をレコーディングする時の主役はあくまでもボーカリスト
いくら「良い音」で歌を録音できたとしても、ボーカリストの歌が良くなくては意味がありませんよね。逆に、少々音が悪くても良い歌をボーカリストが歌ってくれれば、作品としてはそれがベストです。
「良い音」で歌を録音することばかりに頭が行ってしまい、ボーカリストが歌いやすい音作り(ヘッドホンのモニターバランス)を心掛けている人は少ないのでないでしょうか?
マイクの選定やコンプ・マイクプリの入出力レベル設定は、もちろん高音質で歌を録音するためは大切な要素ですが、エンジニアの仕事はそれだけでは足りないのです。
ボーカルをレコーディングする時の主役はあくまでもボーカリストです。
ボーカリストが良い歌を歌うには、歌いやすいオケのバランスで、気持ちいい自分の声がヘッドホンから聴こえてくる事が重要になってきます。
例えば、エレキギターやピアノの高音がキンキン鳴っているオケではボーカリストは歌っていて耳が疲れてしまいます。コンプなどで音厚が異常に持ち上げられたオケでは歌に表情(抑揚)を付けるのは難しいと思います。
また、CDのに入っているカラオケで歌を録音した事がある方もいらっしゃると思いますが、「なんだか歌いずらいなー」と思ったことはありませんか?
そのサウンドはCD制作過程で、マスタリングという作業を行っており音厚を上げたものになっているからです。
ですからエンジニアは、ボーカリストが歌いやすいようオケのバランスをとり、歌にかけるエフェクト(リバーブやコンプ、EQなど)も、歌っていてフィーリングの良い設定にすることがとても大切なのです。
録音する歌の音質はもちろん大事なのですが、先ずはボーカリストのことを思ってサウンド作りをすることを心掛けましょう。
ボーカル録音時の具体的なエンジニア作業
では具体的にどのようにすればいいのか?について以下に書いていきます。
※私の主観でもあるので、これが全てではないことを頭に置いて頂ければ幸いです。
オケの音量バランスを適正に整える事は最も大切です
例えばロックなどは左右にディストーションエレキギターが入る曲が多いですが、これをモニター上で上げすぎると、ボーカリストは歌いづらい場合があります。
またボーカリストがリズムがとりづらいと感じている場合は、ドラムやベースなどの音を上げましょう。
ボーカリストが音程を上手くとれない場合
ピッチを取りづらくしている楽器、特にサビなどのストリングスやシンセパッドの音などを下げる。
また、ヘッドホンの音量を上げすぎていると、音程がとりづらい場合があるので注意を払いましょう。それと片耳をヘッドホンから外すと自分の声が直接耳に伝わり音程がとりやすい場合が多いです。
ボーカリストの耳を疲れさせない
個々の楽器をEQで過度に(最終ミックスのように)作り込んだり、トータルコンプで音圧をあげた状態のオケをボーカリストのモニターに返すことはやめましょう。
これでは歌いづらいだけでなく、ボーカリストの耳が疲れてしまい良い歌が歌えません。
リバーブの量
深くたっぷりかけてほしい人、浅くかけてほしい人とボーカリストの好みは様々あります。
バラードなどは多めにかけたりしますが、ソウルで吐息系のニュアンスを重視したい曲の場合は、バラードでもリバーブの量は少ない方が表情が作りやすかったりします。
曲調に合った、そして歌い手のフィーリングにしっくりくるリバーブの量を調整しましょう。
モニター上のボーカルのコンプのかけ具合
ボーカリストによっては自分の声を近くで聞こえる状態で歌いたかったり、力を入れなくてもしっかりボーカルが聞こえてほしい場合があります。
この場合は録音トラックにコンプのプラグインをインサートしてあげて、モニター上で少し深めにかけるといいでしょう。
こうする事で、自分の声がぼやけずに、立ち上がりも早く声が返ってくるので、特にアップの曲などは歌いやすかったりします。
これは録り音に対してのコンプレッサーのかけ具合ではなく、あくまでもモニター上のコンプのかけ具合についてです。
※録り音についてはコンプは浅めにかけてほいた方がいいです。ミックス時に後でコンプを強くかける事は出来るので。深けくかてしまうとナチュラルな抑揚のある音質ではなくなってしまいます。
EQ
先程は過度に最終形のミックスされたようなEQをかけない方がいいと書きましたが、歌いやすいように個々の楽器の抜けを良く聞こえさるEQや、存在感を増すような中低域のEQはしましょう。
ソフトシンセのピアノ音源などは、細く存在感が薄い音の場合があります。その場合はEQで低域を持ちあげましょう。アコースティックギターなども抜けが悪かったりする場合も同様に上の帯域を補正しましょう。
例えば8KHzあたりでキラキラ聞こえてくる楽器の場合は、その上の12KHzあたりを持ちあげる事で、変に耳に付かないほど良い程度の音の抜けがでてきたりします。
これは各楽器のバランスとも関係してきますが、どの楽器をどう聞かせるか?でボーカリストが歌いやすかったり歌いづらかったりするので、曲調に合わせて調整しましょう。
状況判断
歌を録音している時はエンジニアは録音ボタンを押すなど、ただDAWソフトを操っていれば良いわけではありません。状況に応じて各楽器のバランスを変えたり、注意深くボーカリストの状況を観察しましょう。
人の声は歌っていると刻々と変化していくものです。「何故ここが上手く歌えてないのか?」「どうすればもっと歌いやすくなるのか?」常に頭に入れながら録音作業を進めましょう。
【コンデンサーマイクのタブーな使い方 !?】の記事でも書きましたが、ボーカリストのフィーリングを重視した歌の録り方をすることが何より録音現場では大切です。柔軟性のある対応をエンジニアはしなければなりません。
歌録音の主役はボーカリストです。アレンジャーが自宅にボーカリストを招いて歌をレコーディングする場合も、音質ばかりに気を取られずに、いかに良い環境で歌ってもらうか?ということをまず念頭に置いて進めてください。きっと良い歌が録れると思いますよ。