今回の音が良いCDは、カナダはバンクーバー出身のシンガー・ソングライター、レミー・シャンドが2002年に発表したデビューアルバム 【The Way I Feel 】です。

モータウンの社長ケダー・マッセンバーグが、彼のデモ・テープを聴きその才能に惚れこみ、「21世紀のマービン・ゲイ」を売り文句に、自信を持って全世界に向けて送り出したのがこのレミー・シャンドです。 

レミー・シャンドは作詞・作曲は勿論、アレンジ、プロデュース、演奏、エンジニアまで全てをこなし、アルバムを制作しました。

その類稀なる才能を余す所なく発揮したこのアルバムは、セールス的見れば成功とは言えなかったと思いますが、音楽関係者やコアな音楽ファンから高い評価を受け、グラミー4部門にノミネートされました。

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 Remy Shand(レミー・シャンド)【The Way I Feel】

幼い頃から、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、アイズレー・ブラザーズ、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン、スティーリー・ダンなどを好んで聴いていた彼は、12歳から、「ジャコ・パストリアスやスタンリー・クラークをコピーして」アコースティック・ギターとベースを、しばらくすると「ハービー・ハンコックやビリー・プレストンをコピーして」キーボードも同時に始めるようになる。

とレーベルのArtist Infoに記されているように、ヴィンテージ・ソウルの流れをくむ作品で、ミドルグルーヴのメロディアスな楽曲が並びます。アレンジや音作りも奇をてらったことはせずにシンプルに、どちらかというとスタンダードな生楽器主体の品の良いサウンドです。

また多くの楽器に幼いころから触れていたようで、Dr、Bs、G、Keybords、そしてAlto & Tenor Saxまで、レミー・シャンドが1人でアルバムのほぼ全パートの楽器を演奏しています。(additionalミュージシャンとして1人だけ、Tenor & Baritone SaxにKen Goldがクレジットされてます。) 

またレコーディングに関しても

All Tracks Recorded at Carter Mansion and Watson Street Studios
Engineered by Remy
Mixed at Watson Street Studio by Remy

とクレジットされており、レコーディングとミックスもRemy Shandが全て行っており、自宅のベッドルームでも録音が行われたということです。

マスタリングはSterling SoundのTom Coyne

マスタリングはニューヨークにあるSterling SoundのTom Coyneが行っております。

私も自分が制作した作品の数多くをTomにマスタリングを頼んできましたが、このアルバムもTom Coyneらしい、広がりと奥行き感のあるサウンドに仕上がっています。

特にアルバム1曲目「The Way I Feel 」 はオーディオ機器やミックスチェック時のリファレンス曲として私は良く使っております。

イントロの民族楽器のようなパーカッションとアナログシンセ(?)は上下左右、前後と奥行きと広がり感がとてもあります。

そしてほど良く締りのあるKickと、やわらかくスムーズな音のベースで構成される低音部のバウンド感は、ミックスもさることながら、さすがTom Coyneといったところです。

Sterling Sound特有のS&Dシステム(左右に音像を広げることが出来、真ん中・右・左と別々のEQを掛ける事が出来るシステム)の卓を通した音をしております。

平面的な再生音しか表現できないスピーカーだとそこら辺が上手く再現できませんが、私が自宅システムで使っているスピーカーDynaudio Special 25のような空間表現が得意なモニタースピーカーでこの曲を聴くと、その音作りの巧みさが良くわかります。

自作自演系のスタイル、ファルセットを多用したヴォーカルはプリンスやディアンジェロが代表格ですが、その歌声は彼らのような線の太さや凄み、押しの強さは残念ながらやや力不足です。
またマックスウェルを引き合いに語られることの多いレミー・シャンドですが、これらのアーティストの様に世界的なポピュラリティーが得られなかったのはその辺が影響しているのでしょう。

ただ私はそのレミー・シャンドのややへなちょこな(ファンの方すみません)弱弱しいボーカルが好きです。
白人は白人らしくソウルを歌えば良いんだと思います。

Remy Shandが話題になった2002年というともう10年前のことなので記憶が定かではないのですが、このアルバムの制作期間は相当長かったと言っていた記憶があります。

勝手な推測ですが、自分の部屋に閉じこもりながらオタク的に細部の音作りにこだわり、録音してはまたやり直しての繰り返しだったんでしょう。それが音で伝わってきます。

実はRemy Shandはこのアルバム以降、作品を発表しておらず、現在の活動状況は分かっておりません。一部ではもう音楽を辞めてしまったという説もあります。

しかし2枚目のアルバムを聞きたいと要望しているソウルファンも多く、私もその一人です。

孤高の天才職人Remy Shandの作品が発表されるのを首を長~くして待ちたいと思います。

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アルバム試聴

全曲を視聴する ⇒ Remy Shand【The Way I Feel】

ワンズウィル 中山 雅生