最近の音楽業界ではCD制作費圧縮の影響で、以下の様にレコーディングを行っています。

  • オケなどはアレンジャー(編曲家)が自分でギターを弾くなどして、自宅で完パケ(アレンジ済みのオケが完成されたもの)
  • レコード会社はそのオケを受け取って、歌のみをレコーディングスタジオで録音するのが主流

ボーカルエディットなどの作業もプロデューサーやエンジニアが自宅で行うのが普通です。もちろん、お金をかけられるアーティストやビックアーティストなどは別ですが。

ドラム、ベース、ギター、ピアノ、ストリングスなどの録音はスタジオで行います。ただ最近は、ドラマー自身が自宅でドラム録音をする環境を整えている若いミュージシャンも多く、アレンジャーがドラマーとのデータのやり取りでドラムを録音してくる場合もあります。

スタジオ料金やエンジニアギャランティーは基本時間制なので、

時間がかからなければそれだけ、CD制作費は圧縮できる訳です。

よってボーカルレコーディングも時間をあまりかけられる傾向ではありません。

歌の音質作りやレベル調整を行う時間しかなく、ボーカリストが歌いやすいように、各楽器のEQなどを調整して音作りをしたり、バランスをとったり出来ないプロジェクトも多いんですね。その音を作るのにも20分ぐらいはかかるので。

ヘッドホンへの音の返しが「歌の良し悪し」を分ける】でも書きましたが、ボーカリストが気分良く歌えるヘッドホンのモニターバランスを作る事は、≪良い歌≫を録音する為にはとても大切な作業です。

それがしっかりできないのは少々問題があるような気がします。

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ボーカル録音こそ、一流のレコーディングエンジニアが行うべき

また一流の経験豊富なレコーディングエンジニアが歌を録音する機会も減っているような気がします。

ミックスダウンや、ドラムやピアノ、ストリングスなどの楽器のレコーディングは経験が必要なギャランティーも高いエンジニアに頼むが、歌はギャラも安い若いエンジニアがレコーディングするというのがほとんどだと思います。

実は歌のレコーディングこそ、経験値の高い一流レコーディングエンジニアがやるべきはずなのに。

経験が浅い若いレコーディングエンジニアが全てダメだと言っている訳ではありませんが、歌を良い音で録音する事に精一杯になってしまって、ボーカリストへ送るモニターの音にまで気を配れる人が少なくなってきているように感じます。

また歌録音時の状況判断力にも乏しいエンジニアが多いのも実情です。

この箇所は「音程をとりづらくしているな」とか「リズムを感じづらいんだろうな」など、状況に応じて音のバランスを変えたり、モニター上のコンプのかけ具合などを調整することはとても大切で、うまくボーカリストの微妙な変化にうまく対応できていない現場が多かったりします。

平気でロックの曲など、ディストーションがかかった左右のエレキギターを大きめの音量で、しかもトータルコンプをガッツリかけたサウンドで、歌を録音しているエンジニアがいたりしますが、言語道断です。

「何故ここが上手く歌えてないのか?」「どうすればもっと歌いやすくなるのか?」と、常にボーカリストのことを頭に入れながら録音作業を進められるエンジニアが少なくなってきている気がしてなりません。

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レコーディングで一番大切なのはボーカルレコーディング

これは当たり前の話なのですが、

歌が良いことが音楽作品にとって一番重要だと考えます。少々オケの音質や演奏が悪くても、良い歌をボーカリストが歌ってくれれば、作品としてはそれがベストです。

ですから、ボーカリストがベストな状態でレコーディングに挑めるよう、スタッフは好ましい録音環境を整えるよう考慮すべきだと思います。

ボーカルレコーディングをとても重要視するレコード会社とそうでない会社があるのが現状です。

リスナーの耳は正直です。この考え方の差が、後に大きな差となって現れてくるのだと思っています。

ワンズウィル 中山 雅生