ボイストレーニングを始めると「歌うときには腹式呼吸で」という言葉を何度も耳にすると思います。

「どうして腹式呼吸なんだろう?」と疑問をお持ちの方も多いですよね。

言ってしまえば「絶対に腹式呼吸でなければいけない」なんて決まりはない訳ですから、とどの詰まり胸式呼吸でもしっかり歌えていれば良いですし、歌っている楽曲が自分の作品として成立していればそれで良い! と、言う考え方もあります。

しかし現在、歌う上で腹式呼吸法はスタンダードとされています。長い音楽の歴史の中で構築され、あくまでも「腹式呼吸で歌うほうが効率が良い」ということです。

今回から数回に分けて、その腹式呼吸について詳しく書いてみようと思います。

腹式呼吸のやり方や練習・トレーニング方法についてはコチラをご覧下さい。
「腹式呼吸」完全マスター編 ② ~やり方・トレーニング方法~

まず、腹式呼吸が良いとされる理由は、大きく2つあります。

    <腹式呼吸が良いとされる理由>

  1. 胸部から首肩部にかけてリラックス出来る
  2. 安定的な空気を供給出来る
  3. 歌をお腹で支える時に、腹式呼吸が必要である

まず理由(1)に関して説明します。

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理由1:胸部から首肩部にかけてリラックス出来る

呼吸法には大きく2種類あり、腹式呼吸、そしてもう一方を胸式呼吸と言います。

胸式呼吸は文字通り肋間筋などの胸部周辺筋肉を使い、胸を膨らませて行う呼吸法です。

この場合、空気を吸い込む時に胸部や首肩部を動かしますので、周辺に多少の力が加わります。(肩が上下に動いたりもする)時にそれが筋肉に緊張状態を与え、歌う時に喉が閉まってしまうなど、声帯の周りに悪影響を及ぼすこともあります。

その点、腹式呼吸の場合は、基本的に胸を動かさない方法ですので、呼吸により胸部周辺の筋肉が動くことはあまりありません。よって、首や肩がリラックスした状態を保てます。

腹式呼吸と胸式呼吸

発声における呼吸の基本 ~腹式呼吸と胸式呼吸~」のブログ記事でも以前書いているので、そちらもご参照下さい。

理由2:安定的な空気を供給出来る

声の元になっているのは空気です。空気の量を多くしたり少なくしたりすることで、声は様々な音色に変化します。

腹式呼吸では、横隔膜を使いその微妙な空気の量を調整します。

横隔膜は肺の下に位置していますので、呼吸する時の重心も下にさがり、安定感が生まれます。

腹式呼吸を行うことで、安定的な空気の供給、空気量の調節が可能になります。

次に理由(3)について。

理由3:歌をお腹で支える時に、腹式呼吸が必要である

歌う時に「お腹で支える」という動きがあります。この動きは発声の根幹とも言うべきとても重要な動きです。

腹式呼吸はこの「お腹で支える」動きとリンクしており、これが腹式呼吸が良いとされる最大の理由でもあります。

発声における腹式呼吸と「お腹の支え」とは2つで一つ。セットで行わなければならないのです。

お腹での支えに関しては非常に重要なので、また改めて記事を書きますが、腹式呼吸がなぜ大事なのか?それは、最終的に「お腹での支え」に繋がると言うことを覚えておいてください。

では、腹式呼吸とは一体何なのか?
簡単に言うと「息を吸った時にお腹が膨らむ呼吸法」

な~んだそれだけの事か、、と思うかもしれませんが、そんな単純な事がとても大切なのです。

しかしこの腹式呼吸、簡単なようで、歌うときにキチンと出来ていない方が意外にも多いものなんですね。

ワンズウィルミュージックスクールのボイストレーニングコースでしっかり腹式呼吸を学んでいる生徒さんでさえ、いざ歌うとなると、変に力んでしまい肩が上下に動いたりして、喉を閉めてしまう、いわゆる胸式呼吸になってしまっている方もいます。

自分では腹式呼吸で歌っているつもりでいても、実際には声帯周りに負荷をかけてしまっている

のです。

寝ているときは、比較的多くの人が腹式呼吸をしているとされています。又、赤ちゃんの時は胸の筋肉群が未発達なため、誰でも腹式呼吸をしています。その後、成長とともに胸式呼吸になります。

<女性>
特に女性は多くが胸式呼吸になって行きます。その理由は諸説ありますが、子供を身ごもるときに胸式呼吸のほうが都合が良いからではないか?と言われています。ハッキリとした理由は解明されていません。


<男性>
男性でも胸式呼吸の方は居ます。が、どちらかと言うと腹式呼吸寄りです。胸式、腹式と呼び名は分かれていますが、自然な状態ではほとんどの方が、胸も腹も両方の筋肉を使って呼吸しているハズです。人間の体は多様なのです。

比較的、男性やもしくは女性でもスポーツをされている方などは腹式呼吸が多い様です。

次に 腹式呼吸での身体の動きについて説明をしたいと思います。

腹式呼吸で体はどう動くのか?
簡単に言うと「横隔膜を上下に動かし呼吸を行います」

心臓や、胃袋、大腸など様々な器官はそれそのものが運動して機能します。しかし、肺は自分で膨らんで空気を取り込むことが出来ません。つまり自立運動出来ない器官なのです。

ではどうしているか?

肺は体の筋肉運動によって動かされ、空気を取り込んだり吐き出したりしています。具体的には、横隔膜と腹筋周辺の筋肉を使い行います

<横隔膜とは?>
横隔膜は消化器官と肺を仕切っている間仕切りの様なものです。筋肉組織ですので、腹式呼吸によりそれを意識的に動かすことも可能です。

余談ですが、時々起こる「しゃっくり」は横隔膜の痙攣が原因です。

腹式呼吸とは横隔膜を上下に動かし、肺に空気を出し入れすることを言います。

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複式呼吸の<身体の実際の動き>

空気を吸い込む時

  1. 横隔膜を下に下げる
  2. 肺が下にひっぱられ膨らむ
  3. 同時に空気が肺に入る

空気を吐き出す時

  1. 横隔膜が上に上がる(元の状態に戻る)
  2. 肺が縮む
  3. 同時に空気が排出される

腹式呼吸 体の動き-横隔膜

この一連の運動を腹式呼吸法と呼びます。

ただ歌う場合の腹式呼吸は、横隔膜を意識すると言うよりは、おへその少し下の「下っ腹」部分を膨らませるようなイメージが正しいでしょう。

腹式呼吸をするときには、横隔膜の他にもお腹を取り巻く筋肉群や、大腰筋、腸骨筋などのいわゆる体幹といわれる部分も使います。

腹式呼吸法は、歌手だけでなく、役者や声優、アナウンサーの発声などにも広く使われています。また、腹式呼吸による深い呼吸をすることで副交感神経が働き、心身ともにリラックスできる効果も確認されていますので、一般の方にも是非オススメしたい呼吸方法です。

次回は<実際に腹式呼吸をするトレーニング方法>について書いて行きます。